基盤研究 (S) 「養育者−乳児の動態とその多様性」

科学研究費補助金 基盤研究 (S) 「個別的育児支援手法の創出を導く養育者−乳児の動態とその多様性創発原理の解明」
(研究代表者:明和政子,研究期間:2021年7月−2026年3月)

研究の背景・目的

日本では,子どもの発達・子育てにまつわる問題が悪化し続けている.こうした問題が生じやすい一因には,親子の心身状態のシステムが不均衡であることにより生じる相互作用の困難さがある.本研究は,養育者が育児ストレスを顕在化させやすい生後半年~1年半の養育者―乳児を対象に,両者による相互作用と,そこに潜在する多様性の機構・機序,その生物学的基盤を明らかにする.個体間の身体生理・行動の動態を可視化し,情報の受容―生成―伝達連鎖の因果性や,各個体がもつ形質との関連を検証する.これらをふまえ,個々の養育者―乳児の相互作用時の動態を予測するモデルを構築する.このモデルにより,養育者―乳児の動態を安定した状態へと導き,動態予測を外部からアシストすることで育児効力感を得やすくする,「個別型」育児支援実現に向けた指針の創出を目指す.

研究の方法

養育者と乳児は心身機能のシステムが不均衡であり,成人間の相互作用に比べて,相手の行動予測を外受容感覚(視覚,聴覚などの五感や言語情報)からの信号に頼ることには限界がある.そこで本研究では,両者の個体内・間の内受容感覚に着目する.内受容感覚は,心臓の鼓動や内臓の圧迫感といった身体内部から得る感覚であり,内臓,自律神経系,内分泌系,免疫系などの変動とあいまって,情動やその主観的気づきである感情を生み出す根源である.発達科学,生物学,情報科学,ロボティクスの融合アプロ―チにより,内受容感覚が外受容感覚と統合されるプロセスやその生物学的制約を明らかにすることで,両者の相互作用とその多様性が創発する原理を解明する.
具体的には,養育者―乳児の相互作用を2つの時定数で評価する.ひとつは,個体間の身体生理(心拍・心電・自律神経系)や行動の動態(リズム生成と同期),もうひとつは,ヒトの発達初期(6ヶ月)の相互作用時の動態が,その1年後にどのように変化,あるいはペア間で多様化していくかを追跡する多点評価である.さらに,生後半年と1年半時点での相互作用時の動態は,養育者と乳児それぞれがもつ「身体内部状態(腸内細菌叢・ホルモン分泌)」「心的機能(感情や認知・言語獲得)」の形質とどのように関連するかについても検討する.相互作用時の動態の安定や多様性創発に関わる要因とその生物学的基盤についても,マウス母子を対象として検証を行う(課題①②).これらの結果を受けて,課題③では,個々の相互作用を予測しうるモデルを構築し,多様な当事者に対応しうる個別型の育児支援の指針を提案する.個々の親子に必要となる心身支援のスクリーニング,有効性の高い報酬フィードバック予測,それに基づく支援タスクの設計などを行う.

期待される成果と意義

本研究では,養育者―乳児の相互作用で発生する「安定的な」動態を「生成されるリズムが互いに同期しながら時空間に協応的パターンが編成される状態」と仮定する.このアプローチによって,それぞれの養育者―乳児間で発生する動態を互いに安定した状態へと導き(過度なストレスの回復),さらには,その安定点をより引き上げる(報酬系亢進)ことを可能にするパラメータを推定できる.これにより,多様な親子それぞれに対して有効に機能する「個別型」の育児支援手法を提案することが可能となる.深刻化する子どもの発達や子育てにまつわる問題を,生命科学,情報科学を中心とした基礎研究として位置づけることにより,従来にない方法論と課題解決法の創出が期待できる.

メンバー

  • 明和 政子(京都大学大学院教育学研究科・教授)
  • 菊水 健史(麻布大学獣医学部・教授)
  • 長井 志江(東京大学ニューロインテリジェンス国際研究機構・特任教授)

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