感覚・運動信号の予測学習に基づく認知発達

人間の乳幼児は,生後数年の間に多様な認知機能を獲得する.心理学や認知科学では,認知機能の発達的変化が詳細に研究されてきたが,それを引き起こすメカニズムは明らかになっていない.本研究では,自他認知や摸倣,共同注意,利他的行動などの多様な認知機能が,感覚・運動情報の予測学習に基づいて発達するという認知発達理論を提案する.従来の認知発達ロボティクス研究では,個々の機能が独立にモデル化されていたのに対して,本研究では,様々な認知機能が,予測学習という共通の計算論的モデルによって説明できることを示す (Nagai & Asada, 2015).

視覚発達を伴う知覚・運動の予測学習を通したミラーシステムの創発

ミラーシステムとは,自己の運動を実行するときと他者の同じ運動を観察するときの両方に活動するニューロン群であり,自他の認識や他者の意図理解に重要であると言われている. 本研究では,知覚・運動の予測学習時に視覚発達が伴うことで,視覚表象で自己と他者が未分化な状態から徐々に分化し,それによって運動表象にミラーシステムと同様の機能が獲得されるモデルを提案する (Nagai et al., 2011; Kawai et al., 2012).

他者運動に起因する予測誤差の最小化規範に基づく向社会的行動の創発

向社会的行動とは外的な報酬を期待することなく,他者を助けようとする行動のことで,14ヶ月頃の幼児も向社会的行動を示すこと知られている. 本研究では,他者運動に起因する予測誤差をトリガとして,それを最小化しようとする行動が,結果的に向社会的行動を生み出すメカニズムを提案する (Baraglia et al., 2014).

親子間の触覚インタラクションを通した情動の発達的分化

喜び,怒り,悲しみなどの情動は,快/不快の二値の状態から,生後数年をかけて徐々に分化発達することが知られている. 本研究では,複数感覚情報から階層的に構成された確率的ニューラルネットワークを用いて,情動が段階的に分化するモデルを提案する. 親子間の触覚インタラクションの重要性に注目し,胎児期の豊富な経験を通した触覚の発達先行性と,触覚のC線維がもつ生得的な快/不快の知覚能力が,情動の正常な発達を導くことを示す (Horii et al., 2013).

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